伊那谷ふぃーる

人々の記憶

伊那谷のしごと〜ぶどうとりんご農家 #1〜

誰かの仕事の中身を知ることが、モノの価値を実感する早道な気がしたので、伊那谷のしごと連載スタート。第1回は、ぶどうとりんご農家のGRAPPLE TAKADA 高田知行さん。

伊那谷のぶどうとりんごの味に惚れ込み、2011年に東京から移住して新規就農した高田さん。伊那谷の箕輪町で、ぶどうとりんごを作り始めた。
 

ぶどうは、ナガノパープル、シャインマスカット、巨峰、ピオーネ、シナノスマイル、サニードルチェ、デラウェア、新種のクイーンルージュなど、10種類ほどを栽培している。
 

 

  

ぶどう農家が1年で一番忙しい時期だという、6月中旬から7月中旬。高田さんのぶどう畑では、花穂(かすい)の整形作業である「房切り」が行われていた。
 

“人が手を入れないと、よく見かけるぶどうの形にならないんですよ”
 

知らなかった。ぶどうは、売られているあの形で成長するのだと思い込んでいた。指でちぎる方法もあるそうだが、高田さんのところでは、全部ハサミで切り落としていく。小指の第二関節くらいの長さを目処にしているのだそう。果てしない作業だ。

 

 

“この1ヶ月、ぶどうはものすごいスピードで変化する。ぶどう農家の勝負の月です。今、蕾の状態なので、花が満開になるまでの3〜4日の間に房切を終わらせないといけない”
 

梅雨の時期に重なり、天気を読みながらの作業。高田さんの奥さん、大学生の娘さん、地元のママさんがきて、総出で行う。房だけでなく、ぶどうの葉に光が行き届くように、重なりがないように枝を平行に棚に付けて、絡みつくツルも切り落とす。少しずつ脚立をずらしながら、腰には水分をぶら下げて、もくもくと作業は続く。
 

 

 
“この後1ヶ月も経てば、粒が大きくなって垂れ下がってきます。それまでに、満開になったら房をジベレリンに浸す種なし処理を2回。そして、摘粒(てきりゅう)という一粒一粒ハサミで落とす作業へ。これが、ぶどう農家の腕の見せ所。ぶどうの形を決める作業です”
 

ぶどうは、忙しい時期に作業が固まるので、たくさん作るのが難しい。無数とも思える一粒一粒と向き合う作業を知れば、ぶどうに高価な値がつくのも納得した。でも高田さんによれば、デラウェアとシャインマスカットは全然値段が違うけど、かける手間はほとんど同じなんだそうだ。
 

 

  

ぶどうの苗木を植えて、収穫できるようになるまで4〜5年。ぶどうと向き合って9年目の高田さんは、大切にしていることがある。
 

“粒を大きくするのは難しくて、毎年やり方を変えて試行錯誤しています。粒が大きかったり、形がよいぶどうは高く売れますし。でもそれだけじゃなくて、植物生理を大切にしています。ぶどうの木は今何をしようとしているのか、力を活かすにはどうしたらいいかを考える。
 

例えば、朝5時に畑にくると葉っぱに朝露がついてキラキラしている。すごくきれいで。きれいなだけじゃなくて、実は意味があって、前の日に木がちゃんと水分を吸えた証拠なんです。そんな風に、木の気持ちを感じていく。
 

果物農家は、特にこの3年間、気候変動の天候の影響を受けている。木の状態がよくないと仲間からも話を聞きます。人間が暑いところにいると体調を崩すのと一緒で、ぶどうの木も体調を崩す。どうやって木に良い体調でいてもらえるか、勉強し、考えています”
 

“次に時間が合えば、摘粒にきてください”と誘っていただいた。ぶどう農家のハイシーズン。また、レポートできたらと思う。
 

畑で見つけた四つ葉のクローバー。高田さんからもらった「試行錯誤と行動で進化してきた生き方」という言葉が印象的だった。

 

 

GRAPPLE TAKADA
https://grappletakada.stores.jp/

 

photo & text by Satoko Tanaka